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出口の無い密室

”この物語を最愛の魔女ベアトリーチェに捧ぐ”

そこまで書き記し、筆は置かれた。
「どうだ?ベアト……できたぜ……」
バトラは大きく背伸びをしてから振り返った。
「お前は……なんて言う?……いっひっひ、ひっでぇロジックだってボロクソ言うんだろうな」
「…………」
バトラは執筆机の椅子から立ち上がり言った。
「記憶を自分のものに思えない脳の病気なんてそんなのミステリーじゃねぇって?あの幾子とか言う女は誰だって?ノックス第一条に違反するってか?」
眉をひそめて捨てるように笑う。
「いいよ、赤で言ってやる……幾子はお前だよ、ベアトリーチェ。」
「…………」
「戦人は十八に、ベアトリーチェは幾子になって生き延びていた。そして縁寿とも再会できた。二人に子供はいない。結婚もしていない。だけど作家として、たくさんの物語を生み出した。後生に語り継ぐモノを生み出すことができたんだ。……二人は、幸せだ。」
バトラは先程書き上げた原稿を―セカイを、慈しむようにそっと撫でた。
「…お前を、現世で幸せにするロジック、組めたんだぜ…時間は随分かかっちまったけど…」
撫でていた手はやがて震え出し、原稿用紙には爪を立てられ、セカイが歪んでゆく。
「幸せになれたんだ。だから……」

―死ぬ必要なんて無かったのに―

「……―っ」
もう沸き上がる感情を抑えることは出来なかった。原稿を乱暴に払い除ける。
バラバラと舞いながら床に落ちた原稿用紙は、先に落ちていた沢山の原稿用紙と区別がつかなくなった。
やがて静かになった書斎に、ぽたぽたと音が聞こえた。弾みでインク壺もひっくり返してしまったようだ。ぽたぽたと、透明のインクが床に落ちて染み込んでいく。
バトラは泣いていた。
バトラは泣いた、人目も憚らず。元よりここにはバトラしかいないのでその必要も無かった。
物語を捧げられたベアトリーチェはここにはいないからだ。黄金郷のみんなもいない。みんなを見送った現世の寿ゆかりもいない。八城十八も八城幾子も……
ここにはバトラ以外、誰一人いない。
バトラは倒れ込み、床に散らばった原稿用紙を握り拳で叩く。
何度も。あの日、水面を叩いたのと同じように力強く。
「なんで、ついてきてくれなかったんだ。どうして……置いていったんだ…………ばかやろう」


なんで?どうして?
バトラがどれだけ考えようとも、アナタをどれだけ理解しようとも、
答えなんかでない。

当然よ。だって“答え”が間違ってるんだもの。
アナタの決断は間違いなんだもの。

“あなたが死を選択した時点で、答えは永遠に得られないのよ”

アナタが彼に課したものは最大のミステリー、そして最悪の謎

これは拷問。

これが拷問。

……ねぇ、聞いてる?

…………ええ、わかっているわ。聞こえないでしょうとも

アナタは彼を永遠の密室に閉じ込めた。嬉しい?彼を束縛できて
だけどアナタはそれで満足することはおろか、認識することすらできない。だって死んでいるんだから。嬉しいと感じるアナタはもうどこにもいない。なのに、彼は密室に閉じ込められたままなのだ。
こんな理不尽なことがあっていいの?
―ああ、私も大概愚かね。聞こえないってわかっているのに、それでも聞かずにはいられないなんて。笑っちゃうわ
笑っていいのよ?笑いなさいよ。
笑って……誰か
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プロフィール

Author:ことん
おはようございます。
このブログには個人的な解釈・妄想が多分に含まれますが、別解を否定する目的はありません。元より、相違だけで否定出来るはずもありません。
ただ私も魔女になりたい。そのための修行の場なのです。

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